平成27年度厚生労働省委託事業「クラウドソーシングの現状」の調査結果を掲載します。
※ 平成26年度の調査結果はこちらのページからご覧ください。
クラウドソーシング事業者数(※1)に関する一つの目安として、同業界の主要団体であるクラウドソーシング協会に所属する企業数をみると、「正会員企業29社、賛助会員企業16社(2016年2月時点)」である。ただし、賛助会員の中には、クラウドソーシング事業者というよりは、周辺産業の企業なども含まれている。
業界関係者へのヒアリングでは、「約50社」と認識されている。ただし、他業種から新たに参入したり、一般的なクラウドソーシングとはかなり異なると思われる事業を「クラウドソーシング」と呼称したりする企業も現れており、正確な事業者数は不明である。
クラウドソーシング事業者は、大別すると、幅広い業務を取り扱う「総合型」と、特定分野に特化した「特化型」に分類できる。
業界の傾向としては、「総合型」の活動が活発である。一方、「特化型」は企業規模が小さく、知名度の点などから、まだこれからといったものが多い。
最近では、総合型が特化型を買収したり、提携したりする動きがでている。また、国内のクラウドソーシング事業者のグローバル展開の動きもある。
さらに、事業者の中には、クラウドソーシング事業に加えて事業の多角化として、人材紹介業など他の人材サービス事業を開始しているものもある。
(※1)クラウドソーシング(Crowdsourcing)の定義としては、次のようなものがある。
・「クラウドソーシングとは、クラウドソーシング事業者が運営するWebサイト上で、発注者と在宅ワーカーをマッチングさせる仕組みのこと。クラウドソーシングでは、様々なタイプの仕事が、多様なスキルをもった不特定多数の在宅ワーカーに対し提示されていることが特徴」(厚生労働省『在宅ワーカーのためのハンドブック』)
・「クラウドソーシングとは、インターネット上の不特定多数の人々に仕事を発注することにより、自社で不足する経営資源を補うことができる人材調達の仕組み」中小企業庁『2014年版中小企業白書』
・「インターネットを利用して不特定多数の人に業務を発注したり、受注者の募集を行うこと。また、そのような受発注ができるWeb サービス」クラウドソーシング協会『クラウドソーシング活用ガイド』
クラウドソーシングの主要事業者の「登録企業数」を単純合計すると、数十万社があることになる。ただし、複数のクラウドソーシング事業者に登録している企業も多く、数値的にある程度重複しているとみられる。なお、登録している企業の中には、登録だけでとどまっているものも含まれている。
登録企業の企業規模については、中小企業庁(2014)『中小企業白書』において「発注経験がある企業は、常用従業員5人以下が全体の約7割。常用従業員数100人以上の企業は全体の約1割」とある。
一般的に、従業員の少ない中小企業・小規模企業が、人材不足を補うためにクラウドソーシングを活用している例が多いといわれる。一方、一部の大企業では、消費者のアイデアの収集などでクラウドソーシングを利用する例がみられる。
クラウドソーシングの主要事業者の「登録ワーカー数」を単純合計すると、200万人以上いることになる。ただし、複数のクラウドソーシング事業者に登録しているワーカーは多く、数値的にある程度重複しているとみられる。なお、これには、クラウドソーシング事業者に登録だけした人も含まれている。
なお、登録者の中には、個人というよりは、仕事の受注を目的とした中小企業やベンチャー企業なども含まれる。
最近の傾向としては、主要なクラウドソーシング事業者が、一定以上の実績があるワーカーを「認定ワーカー」として顧客に推奨する「認定ワーカー制度」を整備する動きがある。これは、顧客企業が個人に発注するのを躊躇するため、実績があり信頼できると思われるワーカーを事業者が推奨することにより、仕事のマッチング率を高めると共に、トラブルの発生を軽減するのにも役立つと思われる。
クラウドソーシングのワーカーといえども、一般的なワーカーと同様、基本的には仕事のスキルやビジネスマナー(クライアントに適切なコミュニケーションをとるなど)などの能力によって、仕事の多寡や単価が変わる状況がみられる。
(※2)本文中では、基本的に「ワーカー」と表記する。
クラウドソーシング協会は、市場規模推計などは独自には実施していない。『情報通信白書』や『中小企業白書』などで紹介されている市場規模の数値としては、「2013年度は215億円だが、2018年度は1,820憶円に達する」と推計している。
ただし、この数値は「成約に至らなかった仕事の依頼金額」も含まれている。
クラウドソーシングの主要事業者によれば、業務の受発注の基本形態は、次の図表のとおりである(図表1)。
図表 1 受発注の基本形態
出所: 総務省(2014)『情報通信白書平成26年』p210に加筆修正
クラウドソーシングの主要事業者によると、事業を開始した当初は「プラットフォーム提供」の業務が中心だった。しかし、受注拡大のため、過去1~2年の間に、事業者が発注企業から業務を受託し、それを登録している在宅ワーカーに割り振る「仲介機関的業務」が増えている。このような仲介機関的業務は、「エンタープライズサービス」などと呼ばれることが多い。事業者によっては、これが総売り上げの半分以上に達するなど、今後も増える傾向にある。
仲介機関的業務を遂行するために、受託事業の統括・運営(ディレクター業務)の担い手として、自社スタッフが担当する場合に加えて、ベテランの登録ワーカーに依頼して担当させる場合もある。
このような傾向の背景には、業務のディレクションの手間を省きたい、または、規模の大きい企業の場合は、コンプライアンス等の観点から、個人と請負契約を結ぶのを躊躇するから、といった理由もあげられる。
クラウドソーシングの主要事業者によれば、主な業務内容は次の図表のとおりである(図表2)。
図表 2 主な業務内容
出所:中小企業庁(2014)『中小企業白書2014』p371に加筆修正
最近は、SEO対策の一環で、ライティング業務が増えている。また、従来から多い画像加工に加えて、動画関係の業務も増加傾向にある。
また、データの収集や入力関係の業務は、1社からの発注量が大規模化する案件も増えている。
クラウドソーシング事業者の業務獲得の主な方法は、①クラウドソーシング・サイトやネット広告などを目にしたクライアントからの依頼、②法人への営業活動などに大別できる。
以前は①のようにクライアントからの依頼があって、業務の受発注が行われるのが中心であった。ただし、近年、クラウドソーシング事業者は法人に対して営業活動を行って仕事を受注し、自社から認定ワーカーなどに仕事を依頼する業務量が増加傾向にある。営業先は、自社が開催したセミナーやイベントの参加企業から見つけたり、外注業務が多い企業をターゲットにクラウドソーシング利用を促している。そのような法人の企業規模は比較的大きいため、一般的に業務量や単価が高くなる。
今後も、仲介機関的業務が増える傾向にあり、各事業者は営業部門の増員や体制作り、人材育成などに力を入れている。
従来の業務の中心であった「(クラウドソーシング・サイトという)プラットフォームの提供」の場合、クライアントとワーカーがプラットフォーム上で業務委託契約を締結する形態をとっている。これらの契約は基本的にオンライン上で締結されるが、クライアントとワーカーは必要に応じて、オフラインでも契約書を交わすことができる。
一方、事業者が元請けとなって仲介機関的業務を行う「エンタープライズ型」の場合、基本的には事業者がクライアントと契約を結び、ワーカーにはプラットフォーム経由で事業者から業務を依頼することとなる。
プラットフォームを介して業務の受発注が行われた場合、業務が完了して報酬の支払いが確定した際に、実際の報酬金額における一定の割合の額を手数料(システム利用料)として徴収している。
ただし、報酬における手数料の割合も一様ではない(例えば、A社は一律10%を徴収しているが、B社C社では受発注金額が大きくなるにつれ、手数料の割合が20%より段階的に下がるように設定されている)。さらに、近年では、利用のインセンティブとして、タスク形式の業務に限って手数料を無料化した事業者もある。
また、事業者が元請けとなる「エンタープライズ型」の場合には、クライアントから「進行管理費(ディレクションフィー)」として手数料を徴収する場合もある。
プラットフォームを提供する従来の業務形態の場合、一般的に、クライアントが提示した金額が報酬金額となる。当該業務に関して妥当と思われる発注金額がわからない場合、クライアントは、似たような業務の金額をプラットフォーム上で過去の例から調べたり、事業者に相談したりして金額を決定する。事業者の中には、オンライン上にいくつかの標準価格を提示したり、報酬金額ごとに業務をパッケージ化して提供するものもある。
一方、事業者が仲介機関的な業務を行う場合には、クライアントから提示した金額の範囲内で、事業者がワーカーに報酬金額を支払うこととなる。業務内容によって、ワーカーとの間で協議が行われる。
ただし、これまでになかった業務内容で相場が不明な案件や、業務の量や難易度に不確定要素があると思われるような案件の場合、発注側と受注側との間で協議が行われる場合もある。このような案件は基本的に、プロジェクト形式で受発注されるものだと思われる。
事業者によっては、ワーカーに研修を受けさせたり、ワーカーのスキルを可視化するためのスキルテストを実施したり、企業と提携してスキルアップのためのeラーニングを提供したりするものもある。
福利厚生としては、全国にある施設で優待・割引などのサービスを受けられるプログラムを提供したり、法律や税金に関する講習会を実施したり、ワーカー同士の交流会を開催する例がみられる。また、ワーカーは事業者の提携団体・企業が提供する福利厚生制度に申し込んで、教育系コンテンツを利用したり、施設の割引サービスを受けたりすることもある。
ただし、事業者によっては、上記のような教育訓練制度、福利厚生制度に関して「認定ワーカー」「一定以上の報酬を獲得したワーカー」などと対象を限定している場合もあり、すべてのワーカーがこれらの制度を自由に利用できるとは限らない。
事業者によって様々であるが、数名から数十名のスタッフがクライアント及びワーカーに対してサポートサービスを提供している。中には、社員に加えて、特定の分野に豊富な知識を持った認定ワーカーをサポート要員として活用する事業者も見られる。サポートセンターでは、ワーカーやクライアントからの問い合わせに対応したり、トラブル発生時の仲裁を担ったり、サービス全体を監視したりしている。
問い合わせについては、基本的にメールまたは電話で受け付けているが、中には、ウェブ会議を利用している事業者もある。また、問い合わせの内容を「利用者の声」として捉え、サービスの改善に活かすよう努めているものもいる。事業者の多くは、クライアントとワーカー両者に向けた「よくある質問(FAQ)」のページを設け、寄せられる問い合わせに対応してFAQの内容を随時更新している。
前述したように、クラウドソーシングの主要事業者は、ウェブサイト内にクライアントとワーカー両者に向けた「よくある質問(FAQ)」のページを設けている。そこで問題が解決しない場合は、閲覧者はメールフォームによって問い合わせができるようになっている。ただし、事業者によっては、内容に応じて電話相談を受け付けたり、クライアントや認定ワーカーなどに限ってオンラインチャットで受け付ける場合もある。
また、ウェブサイト内にクライアントとワーカーが業務に関する悩みなどを互いに相談する「Q&Aコミュニティ」を設置する試みも見られる。
クラウドソーシングのクライアントとワーカーの間の主なトラブルとしては、指示内容に関する誤解、期日超過、度重なる修正要求などが挙げられるが、これらは通常のアウトソーシング業務でも生じ得るものである。ただし、クラウドソーシングにおいてはクライアントとワーカーのやり取りが一般的に非対面で行われるため、コミュニケーション不足に起因するトラブルが多いといえる。
例えば、「発注側からの指示の意図がくみ取れない」という相談がワーカーから事業者に寄せられることが少なくない。これは、オンライン上の文字のみによるやり取りに起因するトラブルだといえる。一方、クライアントとワーカーの双方から、「相手と連絡がとれない」という相談も寄せられるという。
また、アフィリエイトや個人情報を集めようとするリスト業者など、一部のクライアントで悪質な例もあるという。
事業者は、基本的にクライアントとワーカー間のやり取りには介入しておらず、当事者間で解決してもらうことを前提としている。ただし、トラブルの内容によっては仲介や調停に入ったり、アドバイスを行うこともある。
また、過去にトラブルを起こした利用者を監視したり、キーワードを用いて検索をかけてトラブルになりそうな案件をチェックするなど、トラブルを未然に防ぐための取り組みに力をいれている。
中には、指示内容に関する誤解を防ぐために発注時のフォーマットの項目を細かく分けるなどの仕様変更を行った事業者もある。
日本でクラウドソーシング事業者が急増した2011~2012年頃と比べると、2014年のクラウドソーシング協会設立に見られるように、主要事業者の顔ぶれもある程度固まってきており、業界の一つの形ができつつあるように見受けられる。
ただし、競争が激しくなっていることもあり、事業者が登録するクライアントやワーカー数の情報を非公表にする動きが増えるなど、業界の全体像が少し見えにくくなっている面もある。
過去数年にわたり、クラウドソーシングはマスコミ等で脚光を浴びることも多かった。しかし、業界としてはまだまだ新しく、変化も大きいため、今後の動向を継続的に把握していく必要があろう。
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